農水省RS事業キックオフ!

農林水産省RS事業「持続可能な農林水産業推進とフードテック等の振興に対応した未来の食品安全プロジェクトのうち、食用昆虫中の有害物質のデータベース化、管理手法の確立」が本日正式にキックオフし,オンラインで第1回運営委員会および研究推進会議がありました.

目的は,「代表的な食用昆虫であるコオロギを対象として、リスク管理の側面から特に重要と考えられるハザードの存在量や動態を明らかにするとともに、リスク低減のための技術を開発する。」です.

会議では,異なる分野の専門家の,様々な視点からアプローチがあり,きちんと研究プロジェクトとして成り立てば昆虫食品の安全性やアレルギーについて価値ある成果につながると思いました.反面,基本的に非常に時間とコストがかかることが十分認識されておらず,かつ研究以外の書類作成が多く求められるのでこの点については先ず改善して頂きたいとも思いました.

小課題2(1)を担当していく予定で,以下を行いながら,昆虫食品への正しい認識と普及のために,微力ながら頑張りたいです.

  • 実際に生産している業者調査・連携調整など
  • 特にアレルゲン移行に関する調査研究やスマート飼育装置の開発・高度化

図.東京農業大学で開発中のコオロギ用スマート小型飼育装置ver.1

INSECTA 2023参加&発表,RS事業における調査

INSECTA 2023 conference

INSECTA 2023 conferencehttps://insecta-conference.com/,ドイツ・マルデブルク,9月13-14日)

この会議は,Pflanzenöltechnologie Magdeburg e.V. (PPM) とLeibniz-Institut für Agrartechnik und Bioökonomie e.V. (ATB)が主催するもので,2015年にマクデブルクで初の全国的なINSECTAを開始し,2016年以来,PPMとATBによって共同開催されています.主に学界と産業界の国内外の専門家が参加し,その目的は「継続してINSECTAが参加者にとって主要な昆虫科学技術カンファレンスであり続け,学際的なコラボレーションを確保すること」です.ドイツを中心に,ヨーロッパ各国,アフリカ,中国などから参加がありました.

新しいトピックとしては,基本的なこれまでの研究に加え,アレルゲンと食品の安全性健康上の利点人工知能の活用さらなる利活用(フラス・浄化・バイオエタノール)などがあり,実際に発表のあった主要な対象昆虫としては,farmed insects, black soldier fly, mealworm, cricket, silkworm, Jamaican field crickets,注目キーワードとしてはfood and feed chains, microbiome, insect-composted organic fertilizer, frass, bioaccumulation, bioethanol, welfareなどでした.

この会議で,大学院生の秋山君とMOS君が次のポスター発表を行いました.

  • Self-selection feed design for crickets (Gryllus Bimaculatus) at
    different growth stages using food waste
  • The potential of monitoring system for Gryllus bimaculatus based on
    loadcells and computer vision

EUにおける昆虫食品の安全性

9月28日に正式にキックオフする,農林水産省RS事業持続可能な農林水産業推進とフードテック等の振興に対応した未来の食品安全プロジェクトのうち、食用昆虫中の有害物質のデータベース化、管理手法の確立」の一環として,INSECTA 2023 conferenceに参加,情報収集を上記のように行いました.

ヨーロッパではアレルギー問題を除き,昆虫は基本的に安全な食品という理解です(昆虫種と飼育方法,環境により異なる).理由は,EFSA(EUROPEAN FOOD SAFETY AUTHORITY)で,2015年より科学的な検討も行いながらその安全性が保障され,新規食品」として現在EUでは4種類の昆虫が正式に認められている事実があるからです.

EFSA(EUROPEAN FOOD SAFETY AUTHORITY).2022
Novel foods: allergenicity assessment of insect proteins
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/e200910

EFSA(EUROPEAN FOOD SAFETY AUTHORITY).2022
Insects in food and their relevance regarding allergenicity assessment
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/e200909

上記の中で,「欧州グリーンディールにおける「ファーム・トゥ・フォーク」戦略は、持続可能な食料システムへの移行を加速し、食料システムを公平で健康的で環境に優しいものにすることを目的としています。昆虫は農業の循環に貢献しており、伝統的なタンパク質源を補完する理想的な候補です。」と明言されています.
昆虫食品の安全性の担保のみではなく,EUの新しい食品産業政策「Farm To Fork戦略」で昆虫生産を挙げていることが大きいと考えます.日本の場合,農林水産省の「みどりの食料システム戦略」がこれに該当し,その中で「新たなタンパク資源(昆虫等)の利活用拡大」と位置付けられています.

Farm To Fork戦略

EUの新しい食品産業政策「Farm To Fork戦略」を読み解く | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報 – ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/a718804066114a95.html

EUで新規食品として認められた4種類の昆虫(ミールワーム,トノサマバッタ,ヨーロッパイエコオロギ,ガイマイゴミムシダマシ)

ミールワーム:「新規食品」としてテネブリオ・モリトール(粉虫)の乾燥幼虫の市販を認可
EU委員会の施行規則2021/822
Amtsblatt der Europäischen Union(2021):DURCHFÜHRUNGSVERORDNUNG (EU) 2021/882 DER KOMMISSION, vom 1. Juni 2021
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/DE/TXT/HTML/?uri=CELEX:32021R0882&from=EN

Locusta migratoria(トノサマバッタ):冷凍、乾燥、粉末のロークタミグラトリアを新規食品として市場に投入することを承認
EU委員会施行規則2021/1975
DURCHFÜHRUNGSVERORDNUNG (EU) 2021/1975 DER KOMMISSION
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/DE/TXT/HTML/?uri=CELEX:32021R1975&qid=1673877231022&from=EN

Acheta domesticus(ヨーロッパイエコオロギ):冷凍、乾燥、粉末のアチェタドメスティックスの新規食品としての市場投入を承認
EU委員会施行規則2022/188
DURCHFÜHRUNGSVERORDNUNG (EU) 2022/188 DER KOMMISSION, vom 10. Februar 2022
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/DE/TXT/HTML/?uri=CELEX:32022R0188&from=EN
(関連)
部分的に脱脂されたアチェタドメスティックス(ハウスクリケット)粉末の新規食品としての市場投入を承認し、施行規則(EU)2017/2470を改正
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/DE/TXT/HTML/?uri=CELEX:32023R0005&from=DE

Alphitobius diaperinus(ガイマイゴミムシダマシ):幼虫を冷凍、ペースト状、乾燥および粉末状の新規食品として市場に出すことを承認
EU委員会施行規則2023/58
DURCHFÜHRUNGSVERORDNUNG (EU) 2023/58 DER KOMMISSION
, vom 5. Januar 2023
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/DE/TXT/HTML/?uri=CELEX:32023R0058&qid=1673877279407&from=EN

ヨーロッパでは,温暖化などの環境問題,タンパク質を中心とした食糧問題,フードロス,肥料やバイオエネルギーなど多岐の社会問題を同時に解決するキーワードとして「昆虫」が着目され,特に2013年以降,研究・開発が行われてきました.現在の議論に,昆虫生産の目的を,①食用②畜産や養殖のための飼料用③その他生物資源(浄化作用,肥料,バイオエタノールなど)として活用するのかで方向性が大きく異なっているようでした.

特に環境問題への認識から,日本より社会問題解決のための研究・開発や新規産業として昆虫市場は認識されていると思いますが,日本と違って昆虫食文化はヨーロッパになかったこともあり,食用昆虫については日本と同様の忌避などの議論があり,日本と同様に食品として普及させるために,我々に近い課題と戦略を持っていることも分かりました(オランダ・ワーゲニンゲン大学).

RS事業へのレポートの一部より抜粋(東京農業大学 佐々木 豊)
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農業環境工学関連学会2023 OS開催

農業環境工学関連学会2023https://sites.google.com/view/agri2023)がつくば市で開催されました.本学会は,日本農業気象学会,農業食料工学会,生態工学会,農業情報学会,農業施設学会の合同大会です.

農業情報学会において「代替タンパク質・アグリテック」研究部会を2023年から設立し,その活動の一環として,オーガナイズドセッション「フード&アグリテック~食品ロス・昆虫など未利用資源利用とクロステック~」を企画・開催しました.

セッション概要:

今後の農業生産では,食品ロス・昆虫・微生物などの未利用資源や機能等を積極的に活用した持続的な循環型システムの構築が重要である.本OSではこれらに関する先端技術を活用したフードテックやアグリテックについて学術交流を目指す.

発表プログラム:

  • 食用昆虫をとりまく状況とその安全性等に関する考え(RS事業):稲津康弘氏(農研機構)
  • メタボローム解析に基づくカイコサナギの高品質乾燥法の検討:坂本一馬(九大・生資環)
  • Self-selectionによる食品ロスを活用したコオロギ(Gryllus bimaculatus)混合飼料の有効性の検証:秋山大知(東京農業大学大学院)
  • Cricketコンテナファームアグリステムの開発-セントラル幼体生産方式に関する研究-:出野 翔(東京農業大学大学院)
  • Cricketコンテナファームアグリシステムの開発-ユニットハウスを活用したコオロギ生産施設の検討-:西野智哉(東京農業大学大学院)
  • Development of AI System to Extract Cricket Behavior:Thanakorn Kaewplik(東京農業大学大学院)
  • Eco&Bee CPS-Integration of CPS into Traditional Beekeeping-:OrucOrucov(東京農業大学大学院)
  • CPS環境制御装置の開発-植物・茸・昆虫への応用-:T M Ahmmed Shybani Simon(東京農業大学大学院)
  • 3Dフードプリンターを活用した新食品開発の検討:岡崎駿也(東京農業大学)
  • 循環型農業生産を想定したコオロギフラス肥料化の検討:黒須毅(東京農業大学)
  • 総合討論

2023年9月28日にキックオフされる農林水産省RS事業「持続可能な農林水産業推進とフードテック等の振興に対応した未来の食品安全プロジェクトのうち、食用昆虫中の有害物質のデータベース化、管理手法の確立」の代表である農研機構・稲津先生にご講演して頂き,東京農業大学の大学院生や学部生を中心に発表をさせて頂きました.

農業工学系の学会では,積極的な昆虫の利活用などはメジャーではないため参加者は限られましたが,こうした研究活動を知って頂く機会と,学生の経験になればと思いました.

参加した大学院生・学部生は非常に落ち着いて良い発表をしてくれました.

お疲れさまでした!

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